人材育成の必要性や営業研修の強化を経営方針に掲げる企業は少なくありません。多くの経営者が「社員教育は重要だ」「人材が企業の財産だ」と語ります。しかし、具体的な取り組みを調査分析すると人材育成研修、営業研修の実施状況には大きな偏りが見られます。
例えば、「営業強化」の必要性に関して、過去に何かしらの研修や取り組みを実施したことのある企業1,200社に対して、電話によるアンケート調査を行ったところ、約85%の企業が「営業力強化」の必要性を認めています。しかし、新人研修以外の営業強化に特化したトレーニングや営業研修を実施している企業は、そのうちの36.7%に過ぎません。
では、必要であると感じていながら、なぜ営業研修を実施しないのでしょうか?
要因は大きく分類すると次の3つに分けられます。
①投資対効果が見えない(過去に実施したが成果が得られなかった)
②営業研修の優先順位が低く、予算が取れない
③研修を実施しても実践に落ちない
ある企業の教育担当の責任者はこのように述べました。「今まで色々な営業研修を実施してきました。実施後のアンケートでは、『自分を変えることができる…』『明日からすぐに活用したい…』等、良い評価をするものの、長くて1カ月、早ければ翌週には元の状況に戻ってしまう。だから高いお金を出しても効果が出ないと感じる」確かに、営業研修に関してこのような悩みを抱える企業は少なくありません。
では、成果につながらない研修にはどんな問題点があったのでしょうか?一つは、「研修の見切り発射」です。営業研修を企画する段階で、営業戦略や営業部門の課題を考慮せずにテーマを設定すると、「実践で役立たない」「使えない営業研修」になってしまいます。営業管理職や担当者への、表面的なヒアリングだけで企画立案することも非常に危険です。例えば、「契約が取れないからクロージングの研修」といった具合でクロージングに関する研修を実施したとします。しかし、相変わらず契約件数は改善されません。
更に深く契約率低下の原因を調査すると、「ヒアリング不足」や「競合他社との差別化不足」といったテーマが見つかる事も少なくありません。この場合クロージング以前に、営業課題が存在する為、クロージング研修やネゴシエーション研修を実施しても成果は上がりません。目先の「契約が取れない」という事実だけに囚われるのではなく、営業担当者が直面している実践障壁を抽出し、原因を深く突き詰めた上で、営業研修のテーマを設定する事が重要なのです。
もう一つの要因は、「営業研修と日常の活動がリンクしていない」という点です。例えば、顧客を知るために多面的な視点で顧客を観察し情報を集めることは重要です。顧客との商談前後や商談中に、アンテナを張って情報を集めるよう気づかせる研修を実施したとしましょう。「情報収集の必要性」というテーマを否定する人はいません。最近はまじめな営業担当者が多く、研修で学んだ事を活用して詳細な情報を集めるように変化します。
しかし、その情報をどのように活用するのでしょうか?情報は集めるだけでは価値がありません。その情報を別の情報と比較したり、分析する事によって顧客のニーズや潜在課題を発見する事ができます。集めた情報と顧客への次回の提案が結びついていなければ、単なる雑談トークの材料程度にしか役立ちません。営業研修を実施するだけではなく、日常の営業活動との紐付けを意図して、企画、仕掛け、仕組み作りをしなければ、「成果の出ない」営業研修になってしまうのです。活用する意義や価値を感じてこそ、本気で、情熱を持って情報を集めようと思うのではないでしょうか?
営業強化は企業にとっての永遠のテーマです。「研修の見切り発射」と「テーマと実践のリンク」に注意を払い、意義ある営業研修、価値ある営業強化を実現したいものです。営業部門は企業にとって「利益」を生み出す要の組織です。市況や顧客ニーズが急速に変化する今日、企業の財産である人材の育成、とりわけ営業研修も同じように常に変化し続ける、新たな取り組みが求められています。より効果的な営業強化を実現するため、現状の取り組みをゼロベースで見つめ直す必要があるのです。
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